ブルース・ワッサースタインは退職し、投資銀行のラザード・フレールの会長に納まった。
そして同社を株式公開した。
自分たちが創った投資銀行をさっさとドレスナー銀行に高値で売って大儲けしただけでなく、ラザード・フレールの株式を公開して、さらに大儲けしたのである。
一方のジョー・ペレラも間もなく退職し、モルガン・スタンレーに移り、さらに後ほどゴールドマン・サックスのサックス家末商であるワインバーグ氏と一緒に、「ぺレラ・ワインバーグ」という会社を興している。
泣いたのはもちろんドレスナー銀行である。
コニャックと思って買ったワッサースタイン・ぺレラは、最大の資産であるはずの創業者の二人が抜けた。
肝心の中身が消えたコニャックは空瓶になった。
こうした失敗も重なって大損し、同行はアリァンッという保険会社の傘下に入ることになった。
それでも業績は悪化しドイツのコメルッ銀行に売られることになった。
コニャックの空瓶2モンゴメリー証券は、アメリカ西海岸でIT企業に対する投資銀行業務を提供する代表的なブティック型の投資銀行の一つだった。
この銀行はやがて他のブティックと同様に、大きな商業銀行に身売りするようになる。
売り手の投資銀行家たちは、会社売却で大金持ちになる。
同社の場合はネイションズ・(強欲資本主義のメカニズムンクに売却した。
ネイションズ・バンクはさらにバンク・オブ・アメリカを買収し、買った銀行名を使うようになった。
現在の「バンク・オブ・アメリカ」の誕生である。
こうした銀行は、ブティック型投資銀行を買収した後、そのままの形を維持しようとせず、規模を拡大してゴールドマン・サックスなどの大手投資銀行と競いたいと思うようになるのが常だ。
それがそもそも間違いの始まりなのだが、経営トップがこのような考えを持っていることを察知すると、主要な幹部は一人、二人と下船を始める。
規模を大きくしようとしても、いわゆる付け焼き刃にすぎず、大手投資銀行に太刀打ちできないことを彼らは知っているからだし、そもそも同じ投資銀行といってもやりたい仕事が違いすぎる。
例えば、モンゴメリー証券の創業者の一人のトム・ワイゼルは、真っ先に下船した一人で、いまは「トーマス・ワイゼル・パートナーズ」を経営している。
こうした幹部が次々に居なくなったことで、モンゴメリー証券はコニャックの中身が消えて空瓶と化した。
最近のバンク・オブ・アメリカは、サブプライム住宅ローン問題でも大きく傷つき、投資銀行部門の大幅縮小を余儀なくされている。
それが残念だったのか、CEOのケン・ルイスは病んだメリルリンチを買収するという挙に出た。
「今度こそ」という執念であろう。
しかし私は成功するとは思っていない。
同様に、自らの投資銀行「ハンブレヒト&クイスト」をチェース・マンハッタン銀行に売却したビル・ハンブレヒトもコニャックの空瓶を売った一人だ。
先に述べたように、チェースを辞めて「WRハンブレヒト」という会社を創っている。
チェースはチェースと名乗っているが、もともとはケミカル銀行が同行を買収してチェースを名乗っている。
彼らは、さらにJPモルガン銀行を買い、倒産寸前のベァー・スターンズを買収した。
チェースはこれらの買収により、商業銀行であり、かつ投資銀行部門を持つことになった。
果たして成功するかどうかは、今後の課題だ。
空瓶を売った者が勝者私は、商業銀行が投資銀行部門を持って、大成功したという話を聞いたことがない。
ドレスナー銀行、バンク・オブ・アメリカ、チェース・マンハッタン銀行に加えて、ソロモン・ブラザースを買収したシティグループ、バンカーズ・トラスト、ペイン・ウェバーなどを買収したUBS等々、ことごとく同じ試みが失敗に終わっている。
そのいずれもが「美しいコニャックの空瓶」を買っている。
私は自分の名前をつけた自分の銀行が、私なしで一人歩きすることなどとても耐えられない。
もし会社を売るのであれば、自分の名前は外したいとすら思っている。
引退するときには、会社を閉めたいぐらいだが、社員もいるし、それは顧客に対して無責任すぎる。
やはり、私の意思をきちんと継承してくれる後継者を育成することが何より大切だ。
コニャックの空瓶を売るような行為は、私にはとてもできないが、ウォール街では、このような取引を行うことは、むしろ「賢い行為」として賞賛される。
なぜなら、法律を守ってゲームをしているからだ。
自分が創った小さな会社が高く売れたという「だけ」で勝ちなのである。
勝者は偉く、言葉は悪いが、敗者は間抜けと考えるのが彼らの価値基準なのだ。
問題企業を売れば二度儲かるある大手投資銀行でサマー・インターンをしたMBA取得中の学生が、私の会社を訪ねてきた。
M&A部門で研修し、部門ヘッドと質疑する機会があったと言って、彼はその時の話をしてくれた。
彼は「買収想定価格が高すぎたり、問題企業を買収した後に、経営面に不安が生じると想定された時など、どのようにアドバイスしたらいいか」と質問したそこれに対して、部門ヘッドは「顧客が高い金額を出すことになったり、問題企業を買うことは、我々にとってはいいことだ。
手数料収入が増えるからだ。
買った企業が問題を起こせば、やがて売らなければならなくなる。
我々にとっては二度儲かることになる。
会社の売り買いを何度もさせるのが当社にとっては一番望ましい」と言ったという。
通常、企業買収の手数料は価格の数%程度である。
買収価格が高ければ、それだけ手数料も増える。
だから高値で買わせるのが望ましいやり方だというのだ。
研修をしただけだったことが幸いした。
学生は、健全な心を失わなかった。
「こんな阿漕なビジネスはできない」とうんざりしていた。
一方、彼の質問に答えた部門ヘッドは、驚くなかれ、現在は政府高官になっている。
彼が政府高官になった時、マンハッタンのあるコーヒーショップで、こんな会話が畷かれた。
「あんな欲深いヤシが政府の高官なんて、まったく政府の人事はどうなっているんだ」とあるビジネスマンがいうと、「いい人事じゃないか。
ウォール街にいる欲深い連中を監視するには、そのなかでも一番欲深い男を政府高官にして監視させるのがもっとも有効だろう。
ジミー・カーター(信仰心の強い元大統領)じゃ務まらないよ」と連れの男が応え、二人は「そりゃそうだ」と納得した。
ポールソン財務長官もゴールドマン・サックス元会長ウォール街の大物が政府の高官になる場合、いくつかの理由が挙げられる。
一つは、使い切れないほどのお金を手に入れたら、次は権力を手に入れたいと思うこと。
もう一つは、これまで金儲けばかりしていたので、少しはお国のために働こうというものだ。
しかし、おそらくは次に挙げる三つ目の理由がもっとも当たっていると人は考える。
それは政府高官になると、民間との利益相反関係を防ぐために、持ち株を売却するよう求められる。
これは強制力をともなうため、売却した株式の値上がり益には課税されないという特典がつく。
大物投資銀行家にとって、安月給で忙しい政府高官になる最大のメリットは、この「タックス・ホリデー」を貰えることなのだと言われる。
タックス・ホリデー狙いで政府高官になった役人に、公平な社会づくりなど期待しない方がいいというものだ。
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